物販を始めると、必ず目にする言葉がある。
「年商1億円達成!」
SNSでもYouTubeでも、やたらと年商1億円が持ち上げられる。
だが、私は思う。
年商1億円なんて目指さなくていい。
もっと言うなら、年商だけを目標にすると危険ですらある。
年商はただの通過点
年商とは売上のことだ。
あなたの手元に残るお金ではない。
まず基本を確認する。
| 年商1億円 | 年商5,000万円 | |
|---|---|---|
| 利益率 | 20% | 40% |
| 利益 | 2,000万円 | 2,000万円 |
| 必要な仕入資金 | 数千万円規模 | 数百万円規模 |
| 発送件数/月 | 数千件 | 数百件 |
手元に残る利益は同じなのに、必要な資金も、作業量も、まるで違う。
経営者なら後者を選ぶ。
しかし世の中はなぜか、売上だけを見る。
本当の数字で見るシミュレーション
「年商1億円で社長になる」
この夢の中身を、リアルに解体してみる。
〈物販・年商1億円ケース〉
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年商 | 1億円 |
| 仕入原価(60%) | 6,000万円 |
| プラットフォーム手数料・送料(10%) | 1,000万円 |
| 外注人件費(2名) | 500万円 |
| ツール・倉庫・その他固定費 | 500万円 |
| 営業利益(20%) | 2,000万円 |
| 法人税等(約30%) | 600万円 |
| 手残り | 約1,400万円 |
年収1,400万円。
悪い数字ではない。
ただ、この規模を回すには、常時数千万円の仕入資金を寝かせ、月に数千件の商品を動かし続ける必要がある。
資金繰りのプレッシャーも、作業量も、リスクも、相当なものだ。
物販で利益率を上げるには「上流」を押さえるしかない
物販の利益率は、仕入れ構造によって大きく変わる。
| 仕入れ構造 | 利益率の目安 |
|---|---|
| 一般小売・定価仕入れ | 10〜15% |
| フリマ・ネット仕入れ(せどり) | 15〜25% |
| 買い取り・業販・卸直取引 | 25〜35% |
| OEM・自社製造 | 40〜60% |
上流に行くほど利益率は上がる。
買い取りや業販ルートを持てば、30%台も現実的だ。
ただし上流を押さえるには、信用・資金力・仕入れルートが必要で、参入障壁は高い。誰でもすぐにできるわけではない。
そして30%取れたとしても、次に比べる業種には構造的に届かない。
技術職・コンサル・ITと比べてみる
職人、コンサル、IT系の事業を見ると、物販とは構造がまったく違う。
〈建設系技術工事・オーナー+従業員2名体制〉
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年商 | 5,000万円 |
| 外注・材料費(40%) | 2,000万円 |
| 人件費(2名) | 700万円 |
| 車両・保険・固定費 | 300万円 |
| 営業利益 | 2,000万円 |
| 法人税等(約30%) | 600万円 |
| 手残り | 約1,400万円 |
年商は物販の半分なのに、手残りは同じだ。
さらに小規模でも成立する。
〈実例:建設系技術工事業・オーナー+従業員1名体制〉
年間20件前後をこなして、利益で約1,000万円が残る。月2件以下のペースだ。取引先や案件の規模によって変わるが、おおよそこの水準は出せる。
物販で年商1億円を回すために月数千件の商品を動かし続けるのと、どちらが現実的か。答えは明らかだ。
コンサルやIT系はさらに極端になる。
〈コンサル・ITサービス・年商3,000万円ケース〉
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年商 | 3,000万円 |
| 外注・ツール費(20%) | 600万円 |
| 人件費(1名) | 500万円 |
| その他固定費 | 150万円 |
| 営業利益 | 1,750万円 |
| 法人税等(約30%) | 525万円 |
| 手残り | 約1,225万円 |
年商3,000万円で、物販年商1億円とほぼ同じ手残りが出る。
並べて比較するとこうなる。
| 物販 年商1億円 | 建設系技術工事 年商5,000万円 | コンサル・IT 年商3,000万円 | |
|---|---|---|---|
| 手残り | 約1,400万円 | 約1,400万円 | 約1,225万円 |
| 在庫リスク | 大 | なし | なし |
| 仕入資金 | 数千万円 | ほぼ不要 | 不要 |
| 利益率の目安 | 20% | 40% | 50〜60% |
技術やノウハウを売るビジネスには、在庫がない。
仕入資金を寝かせる必要もなければ、在庫リスクもない。売上が立った瞬間に原価がほぼ確定する。
それが、利益率の高さに直結している。
ブルーオーシャンは意外と近くにある
物販の世界では、年商1億円を目指す人が無数にいる。
全員が同じ商品を、同じプラットフォームで、同じ方法で売ろうとする。
これがレッドオーシャンだ。
一方で、自分の手元にある技術や専門知識を事業にしている人はどうだろう。
建設系技術職、ITエンジニア、コンサルタント、デザイナー。
彼らは「年商1億円競争」には参加していない。
高い利益率で、静かに稼いでいる。
ブルーオーシャンは、遠くにあるわけではない。
あなたがすでに持っているスキルや経験の中に、まだ事業化していない高利益のネタが眠っていることが多い。
「物販で稼ぎたい」と思うより先に、自分の手持ちのカードを見直してみることが、実は一番の近道だったりする。
売上が増えると悩みも増える
年商1億円と聞くと華やかに見える。
だが現実は違う。
売上が増えれば、
- 在庫が増える
- 仕入資金が増える
- 発送量が増える
- クレームが増える
- ミスが増える
100件売れば1件のトラブルだったものが、1,000件売れば10件になる。
売上だけを追うと、忙しさと悩みだけが増えていく。
税金という現実
年商が大きくなるほど、取られる口も増える。
- 法人税
- 消費税(課税事業者)
- 住民税・市県民税
- 社会保険料
しかもそれぞれ請求のタイミングが違う。
所得税は確定申告後、住民税は翌年6月から、消費税はさらに後から来る。
稼いだ実感が消えた頃に、市県民税が静かにやってくる。
「手残り1,400万円」という数字でも、そこからさらに住民税が来る。実際の手取りはもっと薄い。
年商が大きいほど、この「終わらない支払い」の規模も大きくなる。
本当に目指すべき数字
目標は年商ではない。
短い時間で、月10万円を確実に稼げるラインを1本。
それを3本立てる。
月30万円の利益、年間360万円。
派手ではない。
だが、この形が一番強い。
一つの事業に全力を注いで大きく取られるより、確実な柱を複数持つ方が手元に残り、税負担も現実的な範囲に収まり、何より長続きする。
年商1億円は結果として付いてくる数字であって、目的ではない。
売上を追う人は疲弊する。
利益を追う人は残る。
まとめ
年商1億円を否定したいわけではない。
だが「年商1億円達成!」という言葉だけを見て憧れるのは危険だ。
見るべきは、
- 利益はいくらか
- 手元にいくら残るか
- 自由な時間はあるか
- 仕組み化できているか
である。
年商1億円は肩書きになる。
利益は生活を守る。
そして自由は人生を豊かにする。
目指すべきは売上ではない。
利益だ。
